無資格でクレーン作業に従事していた被災者が、作業中に重量物を落下させ、左足指の一部を欠損した労災事故について、訴訟上の和解で解決した事案

事案の概要

被災者 40代 女性

職業 正社員

被災内容 左足指の一部欠損 

依頼のきっかけ

  依頼者はリモコン式クレーンを使用して重量物を移動させる作業をしていました。重量物を持ち上げようとしたときに、他の重量物にも接触をしていまい、バランスを崩した他の重量物が被災者の左足に落下し、左足指の一部を欠損する傷害を負いました。
 依頼者はこのとき入社して3ヶ月程度でした。また、クレーンを操作する資格はないにもかかわらず、会社の指示で作業に従事していました。
 会社との話し合いがストレスであり、かつ将来のことを考えると適切な賠償を受ける必要があるとの家族からの助言もあって、弁護士に依頼することにしました。

等級認定・交渉の経緯

 依頼後、症状固定になったため後遺障害の等級認定手続(障害補償給付申請)を取ることにしました。
 労基署で担当者による面接があったことから、弁護士立会いのもと、症状等を正確にお伝えしました。
 後遺障害等級は12級でした。
 後遺障害の内容が確定したことから、会社に対して、安全配慮義務違反を理由として、損害賠償請求を行ないました。
 会社側にも代理人弁護士がつき協議をしましたが、会社側の主張は要するに労働者側の過失が大きいというもので、新人が無資格で作業に従事していたという点についても、入社からの3ヶ月で同じ作業を相当数行なっているのでもはや新人ではないし無資格でもこれまでのOJTで十分な技術を有しているはずであるとの反論がなされました。会社からは、結論として今回の事故は主として労働者の操作ミス等で生じたものであるとの主張がなされました。その結果、過失割合の点で折り合いがつかず、訴訟提起をすることになりました。
 訴訟提起後、裁判所から和解案の提示がありました。損害については当方の主張どおりの認定がなされ、かつ過失割合についても概ね当方の主張していた内容が考慮されて判断されたため、当方としては和解案に応じることとしました。会社側も一部難色を示しましたが、最終的には和解案に応じることとなったため、和解によって解決となりました。

弁護士の目 

  労災事故に関しては、過失割合について交通事故のような類型化がなされていません。つまり「このような事故態様であれば基本の過失割合は〇対〇」と基準になるものがありません。そのため、被災者側と会社側で過失割合の考え方について大きな隔たりが生じて折り合いがつかないという事態はよくあります。過去の裁判例は一定の基準にはなりますが、それぞれ前提とする事実関係が異なるため、裁判では「その裁判例Aと本件はここが違うので、裁判例Aは基準にならない。むしろ、〇〇の点で、この裁判例Bのほうが参考になるので、こっちの裁判例Bを基準にすべきだ」等の言い合いになることも多くみられるところです。 
本件では、そもそも事故態様について言い分が異なるうえ、過失割合についてもほぼ真逆の主張がなされていました。そのため、当方としては、動かしがたい事実である無資格・新人という点を特に強調し、その危険性について裁判所に十分に理解してもらう方針を取りました。本来資格をとるためにどのような講習を受けてどのような知識・技術を習得しておく必要があったのか、OJTではその知識・技術の習得として不十分であることを中心に主張・立証しました。その結果、会社側の過失を重くとらえた和解案が提示されましたので、これを受け入れ無事解決につなげることができました。
 事案のどこに力点をおいて全容を理解してもらうのかという観点は重要なポイントになります。その見極めが重要であることを実感した事案でした。